砂の器(第9話)

「逃亡」




「宿命」。
この曲を作り上げると言うことは、初めは過去へのレクイエムの積りだったかも知れないけれど、もはや和賀にとっては自分が捨ててきた過去と否応無しに真正面から向き合う行為となっているのですね。
この曲を仕上げると言うことは、我が身を削って真実を剥き出しにする行為。
麻生がおそらく同じ芸術家としての勘で図らずも指摘した「彼のその力は自滅と成功の紙一重の所にある」と言う芸術が持つそれも宿命。
全てか無か。
そうした和賀の究極の人生。
その和賀が抱えた宿命――本浦千代吉と息子の抱えた宿命とは。
又もや来週に答えは持ち越されて、おそらくこのとき初めて宿命の全貌を知ったであろう松雪泰子さんの本物の涙の意味が実感としては伝わってきませんでしたが、何となく想像はつくような。
千代吉が30人殺したといっていましたから、大畑事件とは津山30人殺し系の大事件だったのでしょうか。
それに至るまでの悲痛な物語がそこにあるのでしょう。
千代吉の方言を聞く限り、石川県の言葉ではないようです。
そもそも彼はよそ者だったんでしょうか。

もはや自分の未来はないと・・・・・ただこの「宿命」と言う曲の完成だけを望んでいるのであろう和賀。
「私たち本当に幸せになれるのよね?」
ともはやその宿命の音を感じ取り、泣きそうな声で和賀に訊ねる婚約者の綾香お嬢様。
宿命がどうのと言う以前に、自分が和賀に愛されていないという確信にちかい思いが生んだ悲鳴に聞こえました。
決してこのお嬢様を可愛いと思っていないわけではないであろう和賀。
けれどもはや彼は彼女の手の届かない所にいる。
その和賀の心に入り込めるのは、あさみと今西刑事だけなのかもしれません。
今の所、全ては状況証拠だけで、和賀=秀夫であると言う確証が取れない限り日本の法律では逮捕状を取れないと思うけれど、その辺がどうなるのか。
予告で和賀本人が今西刑事に対して「宿命の曲だけは弾かせて欲しい」と頼むシーンがあったので、その辺の描かれ方が楽しみです。