砂の器(第8話)

「聞こえてきた父の声」




「みんな鬼やった。人はおと(そ)ろしいほど簡単に醜い鬼になる。」
本浦千代吉の「大畑事件」の石川県の地元で聞いた村人の言葉。
「千代吉は鬼や」「鬼の親子や」と言ったけれど、本当は村人全員が鬼で千代吉1人に罪をなすりつけたと言う事でしょうか。
村がダムになってしまうそのきっかけを作った事件のようですが、一体・・・・・
そしてそんな親子が亀嵩で三木巡査に逢い、そこで「秀夫の為に」と言われたのか父は警察へ。
父から離された秀夫を三木は自分の子として育てる積りだったでしょうに、他人を信じることが出来なくなってしまっていた為なのか逃亡した秀夫。
長崎で保護されて施設で暮らすうちにかの長崎大水害に遭い、その時その地区でたった一人生き残ったのですね。
その時、唯一友達となった「和賀くん」の名を名乗り生きていく事になった。
「和賀くん」は秀夫が唯一心を開いた少年だったんでしょうね。
でも同時に両親と暮らす彼を羨ましいと思ってもいたのかも。
元々長崎では自己申告の偽の名を名乗っていた秀夫。
同じような施設育ちでも、死刑囚の子であるというのと普通の両親を持っていて事故で孤児になったと言うのとでは、世間の目も大いに違う事を聡い秀夫は知っていたのでしょうね。
和賀くんの遺体があがらないのをいい事に咄嗟に名乗ってしまったんでしょうか。
それとも彼が流されていくのを見てしまったんでしょうか。
現実の事故も非常に悲惨で大変なものだったそうですが。
ただでさえ、嘘のスキャンダルさえ噂として捏造し、真偽を問われないのをいい事にテレビのワイドショーあたりで憶測として語るレポーターや自称関係者がいる芸能界。
人気ピアニスト和賀英良がスキャンダルを気にするのは当然ですが、幼い秀夫はいつか世間を見返してやる―――そのためには社会的に成功しなければいけないと判っていたのでしょうか。
「どこの誰だか判らぬ男を才能だけでこの私に認めさせた」「その才能に誇りをもて」
と和賀に向かって言った田所代議士。
その田所も、よもや彼が誰もが知っている重要事件の死刑囚の子とは思わなかったでしょうね。
大畑事件とは、それほどまでに日本中の人にとって鮮烈な事件だったんでしょうか。
「前だけ見ろ。後ろ振り向くな秀夫。」
心なんか冷たくてもいいと息子に語りかけた千代吉の言葉に続くものは、お前が生きるために父ちゃんなんか捨てたっていいぞというものだったとは。
そして迷わず前に向かって進み、宿命から逃げろと父は言う。
けれど宿命からは逃れられない。
和賀英良こと本浦秀夫は父をこんなにも愛している。
和賀は冷たい男ではないから。
殺人者の子が殺人を犯すと言うのは血がそうさせるのではなく、周りによる差別がそういう心理状態に追い込むのでしょう。
しかし又この父の事件が理不尽な差別から生まれたのだとしたら、それを産んだ土壌が哀しいです。