新春ドラマスペシャル「白い影」感想


限りある命だからこそ、その命を精一杯生きたい。
そう言うことを改めて考えさせられた、新春ドラマでした。
けれどその事は、言葉として言うのはある意味容易く、又理屈では理解できても、実際に自分の命が後僅かと判った時に、直ぐに受け容れられるものでしょうか。
しかも、これから、まだまだしたい事があり、これからの人生に夢と希望を大きく抱いているその真っ最中に告知或いは悟ったとしたら。
限りある命だから大切に生きようねと言っても、それが相手が健康だからこそ普通の会話として出来る。
その事を告知しても受け容れる事が出来なかったであろう16歳の少女マコト。
そんなマコトちゃんに嘘をつき通した直江先生。
その優しい嘘の中で、死の訪れと共に自分の死を悟っていくマコトちゃん。
決してかなう事がないであろう自分の輝かしい未来を片想いの相手である直江先生に、苦しい息の下で語りつづけるマコトちゃん。
その言葉の中で、ある意味彼女の夢はかなえられたのかもしれないですね。
直江先生の手のぬくもりの中で、自分の死を静かに受け止めて行く。
限りある命だからこそ精一杯生きたい。
この事は、患者自身が自分自身の心の中でこそ芽生えさせていかなければ決して受け止められない事実であり、医学に携わるものはあくまでその手助けをするしかない。
そういうことなのかも知れないなと思った事でした。
そして、その少女の死を切なく受け止めた直江先生自身にも、魔とも言うべき死の白い影が迫っていた。
医者も死ぬ。
医者の不養生と俗に言うけれど、自分自身の事はつい二の次になってしまう事もあるのでしょう。
医者であるばかりに自分は確実に死ぬのだと言う逃れ様のない事実を突きつけられてしまうことになる直江先生。
誰も嘘の慰めを希望を、与えてあげることは出来ないのです。
優しく信頼も出来る七瀬先生や同僚の医者たちのもとを去って、医者として残りの人生を厳しく生きることで自分を救おうと考えた直江先生。
山本學さん演じる七瀬先生の円熟味のある優しい重厚さと、中居くん演じる直江先生の儚い美しさが、雪吹雪を背景にとても光っていたと思います。
中居くんはやはり、こう言う大人の方と共演すると、その持ち味が活かされますね。
そして、直江先生が幼い日に見た支笏湖の風景は、父の死に耐えかねて湖を子供たちと共に見にきた母の悲しみと、そこから立ち上がろうとした思い出の風景だったのですね。
自らの死期を悟った時に、その朽ちた肉体の埋葬の場としてこの湖を選んだ直江先生。
今も彼はこの湖に抱かれて眠っているのでしょう。

渡辺淳一先生が今回のSPにあたって出してくださったと言うエピソード。
それは、このマコトちゃんの話でしょうか。
そして、交通事故で運び込まれたショックの患者が必死でお腹の子供の事を医師(直江)に訴えるシーンでしょうか。
命の持つ必死な叫びが、このショックの患者からも伝わってくるようでした。
七瀬先生の、救えなかった患者の事を忘れるな、同時に救った患者の命の事も忘れるなと言う言葉も印象的でした。
毎日が戦場であるこの医学と言う現場の厳しさを改めて思わさせられました。
このSPを見て改めて又、本編を見返してみたいと思います。
最初、これから元気になって出逢う本当の恋人の為にとっておけと言っていた直江先生。
そのキスを、死ぬ間際のマコトちゃんにしてあげた直江先生のキスも優しかったです。
場合も状況も多少違うけれど、後に倫子に言う、「(石倉老人を)抱いてやれ」「何故ですか」「死ぬからだ」と言う言葉も、このエピソードによって更に活きてきた気がします。
そして、そんな直江の死を今しっかりと受け止めて、子供と共に力強く生きている倫子が希望の光です。





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