白い影第9回感想

★彼に残された時間★


「愛してますから」
初めてこの言葉を口にした今回の直江先生。
私には何故か「不器用ですから」と言うとても有名な高倉健さんの台詞となんだかかぶさって見えてしまい、そんな直江先生の気持ちがとても切なかったです。
直江先生は、私にとってはある意味誰よりも不器用なくらいに真っ直ぐな生き方をしてしまうひとです。
そして私はそこにこんなにも惹かれてしまっているようです。

死を前にした自分こそができる医療。
「死んでいく僕だから見える医療もある」
「残酷な事実を味方につけて」
それができる最高の機会だと思ったから、自分は今最後まで医者でありつづけようと思った、と小橋先生に告白する直江先生。
あれだけ嘘はいけないとか告知すべきだとか、患者さんのことで意見を対立させた小橋先生が、この言葉と倫子を愛しているからと言う言葉で、直江先生の「嘘」の中に自ら入って来る。
この心の動きが、胸に沁みました。
医学には、これが正しい正解だと言う事なんて、、永遠に無くて発展途上で流動的なものなのではないかと、私も思います。

それは、生き方とか人の命に関わる事ですから、簡単に結論を出せるものではない訳で。
その中で、医者と患者、と言う図式ではなく、実際に自分がこう言う事態に接した時、初めて見えてくる教科書に書かれてある以外の色んな事を、この二人の医者は二人なりの立場で感じたのかもしれないなと思いました。
この二人の男の友情に泣けました。
医者同士、本当にお互いの生き方と腕を、尊重しあっているのですね。
そして、直江先生のために何かしてあげたいと、必死の面持ちの三樹子。
お嬢様の彼女には、これまで誰かの為に何かをしたいと思った事が無かったのではないでしょうか。
そんな彼女が初めて必死になった相手が、直江先生。
彼女は直江の心を捉える事はできなかったし、結局支える事も出来なかったけれど、けれどそんな彼女の存在と真心は直江先生にはきっと伝わった筈だと思います。
院長に何と言われても薬を渡しつづけると、これまたはじめて自分の出世以外の事で、直江に対して行動を起こそうとした小夜子に対してその身と立場を気遣って申し入れを直江先生が断ったのも、自分と関わりを持ったこの女性たちに対する直江先生なりの愛情表現なのかもと思いました.
一見屈折して見えて、そして誰にも心を割らず冷ややかでクールに見えたこの直江先生の奥の心情。
一瞬一瞬を必死でギリギリ精一杯に生きるその生き方に、本当に直江先生と言う人は、純粋で一途な生き方をしている人なんだなあと思わされます。
私利私欲と経営だけにうつつを抜かしていた余りに目が曇り、直江先生が薬を横流ししていると思い込んで敵意を剥き出しにしていた院長も、今度の事を通して考える事があった・・・と言う事でしょうか。
実は娘とも距離を作ってしまっていて、それらをその最愛の娘の事故という形で自分に降りかかってきた時に、最初はどうだったか知らないけれども小橋先生にだけではなく直江先生にまで「お願いします」と涙ながらに頼んだ院長の姿は、ああこの人も又本当に大切な時には判断を誤って目を曇らせる事は無い人だったのだなと思わせてくれました。
そして、倫子。
看護婦である彼女には、やっぱり直江が絶対に何だか知らない病気にかかっているらしいことが判っていると思うのです。
でも直江先生が違うと言うものを、それ以上には聞けない。
でもやっぱり気になってレントゲン写真を持ち出してそれとなく小橋先生に「これは何の病気ですか」と聞いてしまう。
その心の揺れ動きが、その行動を叱っては見たものの(見つかった時に絶対ひどく叱られると子供みたいに身を縮めた倫子が可愛かった)直江先生には判るから、自分が違うと言えばやはり彼女の大好きで尊敬する先生である自分に付き合ってくれる彼女を、そう強く咎めはしない。
倫子が直江の嘘に薄々気付きながらも付き合って、その生き方を支えていられるのは、もしかしたらこう言う形で直江先生がはっきり言わないからなのかも知れないなと思いました。
自分が死んでしまったら、倫子も嫌でもそれを知らされることになるのだけれど、そのとき彼女にどういう形で自分と言う人間を残してやれるのか。
直江先生はもしかしたら、そう言うことまで考えているのかも知れませんね。
直江先生の大きな愛が残れば・・と願います。
一途で純粋な魂を持つ、この二人の恋人たち。
その恋が切ないです。
直江先生の川の話。
迷子になった自分を、帰るべき場所に導いてくれる川。
その川は、直江を倫子の下に導いてくれた―倫子が自分の帰るべき故郷となったのでしょうか。
だから彼女を連れて最後に故郷に帰りたくなったのでしょうか。
そして、直江の故郷であるその北海道への旅行を彼女と約束して、キス。
そのキスの中で貧血の発作を起こして気絶してしまった直江先生。
今回はこの直江先生の病が進行しているのがひしひしと伝わってきて切なかったです。
煙草も吸えなくなってしまったのでしょうか。
今回は痛み以上に貧血が来て、そのときの直江先生に、生と死紙一重のギリギリの色気と哀愁を感じました。
次回はいよいよ最終回。
色んな登場人物たちの、直江先生との関わりを通して描かれる心模様に期待しています。





戻る