白い影第6回感想

★愛がかなう日★


今回は、何と言ってもキーパーソンであった直江先生の恩師でもある七瀬先生と、直江先生の絡みがとても胸に染みました。
七瀬先生役の山本學さんは、TBSの「ありがとう」シリーズにもご出演されていて、優しい兄でありお医者様である役を好演されていました。
私も幼い日に見ていて、そのイメージが強く大好きな役者さんの1人だったので、懐かしく嬉しかったです。
直江先生にとっても、とても懐かしく父とも慕う、大切な方だったのですね。
その先生の思いがけぬ来訪。
直江先生の表情がとても柔らかで、その喜びが自然と伝わってきた事です。
直江先生の秘密――病気の事も知る先生。
その教え子である直江先生が、自分自身の病気さえもきっちりと研究材料として、データをとって冷静に報告してくる様に、「立派な医者に育った感動」を覚えると同時に、直江先生の孤独感を誰よりも感じ取ってさぞ辛かったことでしょう。
そのご愛情に涙してしまいました。
こんなやさしい父親のような先生から離れて、たったひとり行田病院に来た直江先生。
したたかで、まさに自分の方こそ何考えているんだか油断のならない行田院長の下で働いている直江先生。
そして、誰にも心を割らず、ただ刹那的に寄って来る女性も受け容れてきた直江先生。
優しい人に、心を許して、自分が崩れてしまうのが怖かったからなのでしょうか。
そしてストイックなまでに厳しく、最後まで医者としての自分の生き方を全うさせたいと考えているらしい直江先生。
そんな直江先生の前に現れた、愛らしい天使が倫子。
その倫子にかたくなに心を閉ざし、けれど他の女性たちの事も受け容れられなくなってしまった直江先生。
その直江先生の優しさは、ひたすら死に行く運命を余儀なくされている患者さんに向けられるわけですね。
中居くんが前に他局で演じた医学生のドラマの中で、とても印象に残っている言葉があります。
「医学とは敗北の連続である」。
人間の病、そして死に直面する仕事の中で、医者とは常に自分の非力さと敗北を実感させつづけられるものなのだと。
そしてその中からこそ明日への希望を見つけ出して行かなければならないのだと。
それは、今回のドラマを通しても、とても強く感じさせられています。
生き方より死に方、と答えた直江先生の死生観。
まさに、直江先生も又、自分自身の病気と言う逃れられない事実の中でもがき苦しみ、真実の愛を求めているのではないかなあと思ってしまいます。
武士道とは死ぬ事と見つけたりと言う言葉もありますが、逆説的に「どう生きるか」と言うテーマに繋がって、とても深いし難しい事だなあと思うのでした。
今回、痰を詰まらせて、まさに自分の死と直面してしまった石倉さん。
壮絶でした。
医学の現場では、毎日のように出会う患者と医者の、壮絶な闘いなのでしょうか。
その中で石倉さんが闘えるのは、たとえ嘘でも「大丈夫ですよ」と安心させてくれる直江先生の「眼」のお陰なのでしょうか。
助からない病気だと、話して一生懸命闘える人なら直江先生も告知したと思うのです。
けれど、これはケースバイケースで、勿論その判断も難しいけれど、自然に石倉さん夫妻がその死を受け容れられるように、導いてあげるのも直江先生の仕事なのでしょうか。
自分を見守る直江先生に、酸素マスクをしながら何か必死で語りかけようとしていた石倉さん。
俺はもうダメだから死にたいとでも言ったのでしょうか。
けれど、優しく慈愛をこめて眼だけでそれに対してなだめ、手をしっかりと握って「大丈夫ですよ」とだけ答える直江先生。
そんな、直江先生の壮絶な生き方の片鱗を見て、どちらかと言えば研究一筋のタイプであったろう小橋先生が、立場は違うけれど良き理解者となっていくような気がしました。
「頑張れ」と言う言葉は、簡単に言える。
けれど、一歩踏み込んで考えたら重荷になる。
日常生活でも難しいことだな、と思いました。
そして、直江先生に切られてしまった女性たち。
三樹子も小夜子も、とても納得は出来なさそうですね。
嫉妬を剥き出しにして倫子に迫る三樹子。
三樹子も又切ないですね。
けれど、倫子は強いですね。
与えられるより自らが愛を与えたい。
倫子がそう言うタイプの女性だからなのでしょうか。
そして、懐かしい恩師との再会の中で、
「頼むからひとりで抱え込もうとするな」
「自分が一人ぼっちだなんて思うなよ」

と涙ながらに言われて、何か凍りついたものがゆるやかに溶けていくかのような直江先生。
この恩師とのエピソードによって、直江先生が原作に比べて一回り若返った事の意味が生きたように思いました。
若くて儚い命を懸命に生きる直江先生の切なさが伝わってきました。
自分の病気と懸命に闘う直江先生。
夜の帳に包まれて、ひとりボートを漕ぎ出し、夜明けもすぎて丸一日眠りについたまま流されゆく・・・
辿り着いたのは、まだ早い蒲公英(たんぽぽ)の群れ咲くそこだけ春の岸辺。
そこには、春の女神のような倫子がいて。
まるで死に至る致命傷を受けて、棺桶のような小舟にのりコーンウォールからイングランドの荒波にもまれて、治療の為の秘薬を持つアイルランドの王女イゾルデの元に辿り着いた王子トリスタンのよう。
イゾルデの秘薬でトリスタンの傷は癒される。
又、バイロンの詩の「シャーロットの乙女」も思わせるその美しい映像と音楽が素晴らしかったです。





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