舞台鑑賞






「南座・三月大歌舞伎」  「南座・近松座歌舞伎公演」  「謎の下宿人―サンセット・アパート―」 

「美女と野獣」  「花あかり」  「風のなごり」






南座・三月大歌舞伎

2003年3月3日初日〜3月27日千秋楽。
夜の部。
南座にて。

「源氏物語」
須磨の巻
明石の巻
京(みやこ)の巻

瀬戸内寂聴 訳・脚本

光の君・・・市川新之助
紫の上・・・尾上菊之助
明石の君・・・福助
明石の入道・・・市川團十郎
桐壺帝の霊・・・市川團十郎

雅やかなお公家様と言う感じの光の君。
季節の中の一つ一つの花に心惹かれ、その花を愛でるように女性も愛する光の君。
「色好み」という言葉が最上の誉め言葉であったこの時代。
美しいものを愛するのがこの光の君なのです。
その愛は常に本気で、彼はまるで太陽が分け隔て無く惜しみなくその光を降り注ぐように、女性たちを愛するのでした。
けれど、それゆえに愛される女性たちの心に、愛と苦悩も生まれてくる。
才色兼備で理想の女性とされた紫の上のあまりに愛らしい嫉妬心。
光の君の最愛の人と謳われながら、子が授からない彼女の苦悩は大きいのです。
京(みやこ)から左遷と言う形をとって鄙びた静かな須磨・明石にやってきた光の君と出会い、心を通わせ身ごもった明石の君にしても、身分の高い都人の光の君と自分との縁の事について、深く思い悩むのでした。
そしてその父である明石の入道の娘を思う思い。
新之助の実の父である團十郎がこの役を演じたのですが、なんともいえない妙味を醸し出しており、広がりを感じさせました。
そうしたものが美しく雅やかな演出の中で描かれ、そしてまだ若い市川新之助が演じる舞台にふさわしく、ちょっと洋風なメロディも取り入れたモダンで夢幻的な感じが素敵でした。
最初の序幕の、都落ちした光の君が須磨の海を見つめるシーンはけむるように美しかったのですが、白檀を焚き染めたと見えて、香りが客席全体にも流れてきてさらに素敵でした。
女性たちの人間味溢れる愛の苦悩振りや心の機微は、流石に瀬戸内寂聴さんの脚本だけあってウィットに富み、伝わってくるものがありました。
途中、光の君と紫の上の連舞が舞われたのですが、それがお雛様のように美しかったです。
最後のシーンは嵐山の明石の君の邸だったのですが、小さな姫の幸せを思い、姫が父である光の君とともに二条城に向かうのを見送る明石の君と尼君の気持ち(この姫は紫の上に育てられて後に匂宮を産む事になる)、そして光の君の気持ちが美しく描かれ、その場に舞い仕切る雪が非常に美しかった事でした。

南座・近松座歌舞伎公演―歌舞伎400年・近松生誕350年―

2003年5月6日〜8日。
南座にて。

「関八州繋馬」

近松門左衛門作

平親王将門娘 小蝶・・・中村扇雀
小蝶亡霊 後に土蜘蛛の精・・・中村鴈治郎
源頼平・・・中村亀鶴
伊予の内侍・・・上村吉弥

近松門左衛門らしい男と女の情のもつれの描写から始まったこの舞台。
源頼信に思いを寄せる侍女小蝶。
その頼信の恋人は恋文を通わせていた宰相の娘、詠歌の前。
さらにこの詠歌の前に思いを寄せていたのが頼信の弟の頼平。
小蝶の企みで、詠歌の前は頼平と駆け落ちする事になるのですが、結局源家を継いだ頼信は、伊予の内侍を妻に迎えることになるのです。
悲しみに沈む小蝶。
けれどここでこの小蝶が思い立ったのは、庭の毒蜘蛛を伊予の内侍に仕掛けて毒殺する事。
この時、小蝶の女の嫉妬の恨みに狂う性根と毒蜘蛛の魄は、交感しあったのでしょうか。
ところでこの小蝶、実はもっと深い秘密があったのです。
実は彼女は関八州に威をふるいながら先年朝敵として滅ぼされた平将門の娘。
兄と共に父の反逆の志を継ぎ、天下を覆そうと源頼光の館に間者として内情を探る為に潜り込んでいたのです。
この妹のもとにやってきた兄良門は、「今夜こそ忍び入って頼光・頼信を討つべき時が来た。手引きせよ」と告げます。
けれど頼信を密かに恋するようになっていた彼女はためらいます。
この彼女の行動が、実は全て頼光の奥方に見られていて、様子を伺っていたこの奥方に、小蝶は斬られてしまうのでした。
しかしそこで盗賊一味と誤解されてしまった小蝶は、先祖・兄妹の恥辱とばかりに自らの素性を告げます。
恋の嫉妬と父の敵討ちの両方の激情に燃え盛る小蝶。
けれど結局は、頼光の家来の中でも豪勇で名高い平井保昌に首を跳ねられて死ぬのでした。
さて頼光奥方はこの小蝶の口真似をして、兄の良門をおびき寄せます。
この釣り寄せられた良門を保昌が組みとめて互角の戦いをするのですが、ついに「強敵を生け捕ったり」と呼ばわった時、小蝶の胴と首が繋がってむっくと起き上がり、妄執の力で保昌の五体に取り縋って苦しめます。
危うい所で逃れ去った兄良門。
保昌が小蝶の体を突き放すと再び胴と首とは離れて倒れ付すのですが、こうして小蝶は怨霊として生まれ変わったのでした。
そして、伊予の内侍にもののけとして取り憑いて苦しめるのです。
恐ろしい夢にうなされ、うめき、身もだえして苦しみ、しまいに気を失う有様の伊予の内侍。
頼光の家来の四天王と呼ばれる豪勇の武士(綱・金時・貞光・末武)の妻女達がおそばにつかえておまもりしているのですが・・・・・
いつのまにか蜘蛛の化身となっていた小蝶の亡霊。
その蜘蛛とは、葛城山に年経る土蜘蛛の精霊だったのでした。
土蜘蛛と交感し、恋の嫉妬の炎に身をやつした小蝶の亡霊は、千筋の蜘蛛の糸を内侍に投げかけ、五体を絡めて苦しめます。
このあたりの舞と言おうか立ち回りが、本当に勇壮で見事でした。
この土蜘蛛の化身に長刀を構えて立ち向かう四天王妻たち。
ついには6つの腕を持つ巨大な蜘蛛となった小蝶の亡霊。
「将軍太郎良門を助けてその妹小蝶となり大日本を魔界となそうとしたが、恋に心を奪われて肉体は滅びた。しかし魂魄(こんばく)はここに留まって思いを遂げる。この一念を思い知れ」
なんともおどろおどろしい女の情念でしょうか。
女のいじらしい恋の気持ちは夜叉と化し、土蜘蛛と一体化してしまったのです。
そして、大詰ではいよいよこの土蜘蛛の本拠地葛城山を舞台として、勇壮な戦いが繰り広げられます。
ここに、土蜘蛛に守られた将軍太郎良門が出城を構えているのです。
この家紋が繋馬なのです。
土蜘蛛とは天皇家に朝敵とされた人々の怨念の亡霊だという説もあるようですが、それを平将門(=相馬将門)伝説と結びつけた物語なのでしょうか。
平将門は、近年「帝都大戦」という映画でも、東京を魔界都市にすべく現れた御霊としても登場します。
関八州を支配して関東独立の勢いを示した時期もあったこの将門は、関東住民の間で英雄として仰がれ、その死後御霊(祟りをなす強力な霊)として怖れられ、東京の神田明神を始めとして将門を祭る神社が多くあるといいます。
又、このモチーフとなっている「土蜘蛛」。
江戸時代の歌舞伎は、四天王物が好まれ、頼光の土蜘蛛退治が描かれた芝居や舞踊劇は糸を撒き散らす派手な演出で人気があり、多数作られたとか。
2000年に松竹座で見た
初春大歌舞伎の「蜘蛛糸梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」も、やはりこの「土蜘蛛」をモチーフとしたものでした。
その時の土蜘蛛もまた中村鴈治郎。
坂田金時(金太郎)を演じていたのが息子の翫雀。
さて、攻め寄せる源家の軍勢。
綱・金時ら四天王が勇壮に舞台に立ち並びます。
一人顔の赤い武士がいて、思わず「あ、あれが金太郎こと坂田金時なのね」と思わず笑みが零れた事です。
巨大な土蜘蛛と四天王の熾烈な戦い。
この立ち回りが又非常にリズミカルで躍動的。
見事でした。
最後に登場するは、人間業では倒しがたい敵なればと、源家に伝わる蜘蛛切丸の名刀を携えた源頼平。
源氏の氏神正八幡の加護を願いつつ、その名刀を抜き放って投げつけます。
かくして蜘蛛の通力は消えうせて、源氏の世は万々歳と凱歌を奏するのでした。

「連獅子」

長唄囃子連中

狂言師右近 後に親獅子の精・・・中村鴈治郎
狂言師左近 後に仔獅子の精・・・中村翫雀

以前、松竹座で同じこの
連獅子を市川團十郎・新之助親子で観たのですが、今回は中村鴈治郎親子。
鴈治郎は女形で有名な人ですが、この連獅子は初舞台で、東京公演(国立劇場小劇場)では孫の中村壱太郎と共に踊ったそうです。
「歌舞伎役者で孫と連獅子を踊ったのは誰も無い」とのこと。
僅か13歳のこの仔獅子は、2002年4月には父の翫雀と岸和田市の市立浪切ホールの柿落としでも舞っているとか。
可愛い仔獅子を観てみたかったのですが、今日見たのは鴈治郎と翫雀の親子獅子でした。
きらびやかな手獅子の舞。
合間に入る軽妙な二人の僧の狂言のようなやり取り。
そして、きらびやかで勇壮な連獅子の舞。
赤や白の獅子の長い髪が大きく舞います。
汗の一滴まで見れる位置で見たのですが、素晴らしい伝統芸でした。

謎の下宿人―サンセット・アパート―

2003年5月30日〜6月3日。
シアター・ドラマシティにて。
稲垣吾郎主演。

とっても上質の素敵なコメディ。
都会の隅の懐かしい昭和の香りがしました。
しんみりとした哀愁もあって、笑わせながら泣かせる。
名演技の役者さん揃いの中で、稲垣吾郎の個性―――ホワーンとしたとぼけた味や可愛らしさが、とてもよく活かされていたように思います。
日の出荘と言う、その昔あった「めぞん一刻」と言う漫画の中に出てくるようなアパートに住む個性的な下宿人たち。
そしてぐうたらの大家。
シッカリモノの妻。
家出をしていたけれど帰って来た2人の娘たち。
その中の、人間模様と会話のやり取りが、本当にリズミカルで楽しかったです。
稲垣くん演じる町田くんがやって来た事で、この日の出荘の人間に運が向いてきたのかと思ったら・・・・・意外な展開。
いえ、人生はやはり厳しいと言う訳。
けれどその中で、本当に大切なものをそれぞれに彼らは見つけていくのでした。
本当に素敵なお芝居でした。

美女と野獣

2003年6月1日開幕。
劇団四季。
ロングラン公演。
京都劇場にて。

ポーモン夫人の原作で、かつてジャン・コクトーが映画化したこの「美女と野獣」。
ポピュラーにしたのがかのウォルト・ディズニーのアニメで、私も公開された時に早速映画館で見てきました。
ミュージカル仕立ての見事な音楽と、フランスの田舎町を見事に再現した映像。
大画面でのそのリズミカルな動きと映像に息を飲んだものです。
それがどう舞台化されるのかが楽しみでした。
そしてそれは期待に違わず、部分的に上手に省略して舞台仕様になった筋書きではあるけれど、まさに映画をそのままに再現した舞台でした。
舞台装置もとても凝っていて、野獣の城のあの可愛いユニークな家臣たち――ポットのミセスポットや、燭台で伊達男のフランス人給仕頭のルミエール、時計になってしまった几帳面なイギリス人執事のコッグスワース、バロック風のクローゼットで元はヨーロッパオペラ会の華と呼ばれたタンス夫人――など、可愛らしいアニメの動きとは又一味違った個性派揃いで、衣装が又素晴らしかったです。
そして、ベルのディナーを用意する時のキッチン小物やお皿やナイフやスプーンたちの華麗なダンス。
まさにミュージカルの醍醐味というべき華麗さでした。
そして、原作のポーモン夫人のベルは、実に淑やかで健気な娘で、お話自体もある意味厳しいくらいに研ぎ澄まされた清廉な物語という印象を子供の頃読んで受けたのですが、コクトーの「美女と野獣」となると、この美女ベルの美女ならではの残酷さが加味され、それが又現代のディズニーとなると趣を変えます。
目の前のオシャレや男性の話にばかり夢中になっている村のほかの娘たちと違って、本好きで自由な空想を膨らませて遠い国の御伽噺に胸を膨らませるベル。
周りからも変人扱いされているけれど、彼女の方も目の前のつまらない男たちに何てまるで興味なし。
自分に言い寄る、村の娘なら誰もが憧れる野性的で美丈夫のガストンの事も、「あんな頭の中空っぽのつまらない男」と相手にもしません。
そして、父の身替りとして野獣の城の囚われの身となったのに、決して野獣の言いなりになったりしない。
この気の強い美しい娘に夢中になってしまった野獣の方が、逆に彼女のご機嫌を伺いそのデリケートな娘心の扱いに困って悩みあぐねる様子。
ベルは夢に夢見、恋に恋してきた娘。
私は私でありたいと、自由な小鳥のように飛び回ろうとする、好奇心も旺盛なお転婆娘でさえあるのです。
もしかしたら、見かけの美醜だけで男を選んではいけないという、これはベル自身の成長物語でもあるのかもしれません。
最初は、その横暴さや無骨さを嫌悪して野獣の不器用な彼女へのお誘いを撥ね付けてばかりいたベル。
けれど彼女は、野獣の自分に対する真心に触れた時、その心の奥の優しさを知るのです。
その時から彼女は、時に母のような心で野獣の不器用さを包み始めるようになる。
その彼女の愛に触れて、少しずつ頑なな心を溶かし始め、癇癪を起こす事を抑えるようになっていく野獣。
やがて彼は、相手を縛り独占するのではなく、相手のために何かしてあげたいと言う本当の愛情に目覚めていきます。
そんな彼と対照的に描かれるのが、見かけは美丈夫だけれど心がただの野獣のガストン。
そして真の愛情を得た時に、野獣は元の美しい王子にと戻るのでした。
この野獣、野獣でも十分に可愛かったと思うし、その姿のままでもベルに愛されたと思うのですが(笑)。
でもこの美しい若者の姿が王子本来の姿だったのだから、ベルの心の目がそれを見抜けたということになるでしょうか。

花あかり

2003年6月1日〜25日。
南座にて。
藤山直美主演。

とても豪華なキャスティングで、その調和の取れた妙味が十二分に楽しめた舞台でした。
藤山直美は、それがウリのひとつでもある泥臭くて健気で元気のあるいつもの役どころでしたが、恋人になる役どころの美木良介が、テレビで見るよりパンフレットで見るよりはるかに垢抜けて美しく、驚いてしまいました。
最初別人かしらとさえ思ったほどでした。
星由里子は、浮世離れした優雅な出戻りお嬢様を決め込む役だったのですが、美しかったしピッタリの役どころだったけれど、そのお嬢様時代の役どころはちょっと若作りっぽさが出てしまって残念。
でも、年相応の役になった時は、流石にその清楚なマダムとしての美貌とオーラが輝いていて見事でした。
ベンガルは妙味を出してくれているし、尾藤イサオにはまさに尾藤イサオのオーラが出てました。
あと、小野寺昭、藤間紫や土田早苗などの豪華キャストで、ストーリーも昔ながらの人情喜劇ながら、後味スッキリ爽やかで、気分も軽くハイカラな感じに仕上がっていた事でした。

風のなごり―越中おわら風の盆―」・・・・・・★

2003年7月4日〜14日。
南座にて。
風間杜夫&多岐川裕美主演。

準備中






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