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風のよる

第6章

大空は、シェンの棲み家である。
大空にある時、シェンは「気」と化していた。
シェンは、そこからすべてを感じ取っていた。
やがて、シェンはふたりが眠りについたのを見て取ると、静かに舞い下りてきた。
シェンは、ふたりをその気で包みこむと、ほうっと息を吐いた。
そして、自分もそっとブロンの頬に口づける。
ノワールは、自分に妬いているかもしれないが、自分こそ竜の身で、ブロンを貫けない。
ブロンが壊れてしまう。
ちいさかったときは、ブロンがその腕に抱き締めていてくれていた。
けれど、身体がみるみる大きくなっていったシェンは、やがていつかブロンをたいせつにたいせつに包みこむ。
そして、こうしてノワールがブロンを強く抱くのを見て、そこに自分のこころを重ねあわせる。
シェンは、ふっと微笑んだ。
ブロンとノワールに熱い焔を与えたのもシェンだった。

やがてシェンは、ブロンを抱き締めたまま眠るノワールをそっと抱き取ると、木陰に寝かせた。
夢を見たまま眠りつづけるノワールは、そのまま我が身を抱き締めて眠りつづける。
そうしてシェンはブロンをそっと我が身に抱き取ると、大空に翔びたった。

やがてノワールは目を覚ました。
腕に抱いていた筈のブロンはそこにもうなく、ノワールはふたたび軽い絶望に囚われていた。
見つけた、と思ったらすぐに又儚く掻き消えてしまうブロン。
近くに居てさえとおくに感じてしまうブロン。
でも、あの時は確かに自分はこの手に抱いたのだ。
そして、いつかのあの時もよくここまで来たねとブロンはしずかに笑っていた。
まだ心に残る温もりと共に、少し悲しくなって、ノワールはちいさく嗚咽を漏らして泣いた。
けれど、残る温もりは消えはしなかった。
「何とかなるかもしれない」
心にともったちいさなコランダムの焔を抱き取りながら、ノワールは低く声に出してみた。

シェンは、こうしてブロンをはじめて大空に連れてきた。
ブロンはまだシェンに包まれたまましずかに眠っている。
シェンは高い山の自分の祠にブロンを運んでいった。

シェンはうつくしいものすべて愛した。
紫水晶の原石でできたその祠の中心にブロンをしずかに横たえた。
紫水晶・・・アメジストのその原石は、太古からのその姿のままでもうつくしい。
神秘的な激しさを内に秘めている。
人の手で磨かれて淑やかな甘さを放つようになる。
けれど、決して簡単に丸くなろうとはしない野生を内に秘めている。
そうした水晶のようなブロンの瞳をシェンは愛していた。
しんなりと横たわるブロンの愛しい瞼に優しくくちづけると、みるみるシェンは背の高い筋骨たくましい少年へとその姿を変えた。
ブロンの瞼がすこしうごいた。
ようやく意識を取り戻したブロンの目の前にあったのは、あどけない瞳をした見知らぬ大きな少年だった。
「怖がらないで」
シェンはそっと語り掛けた。
「・・・シェン?」
ブロンはその少年のあどけなく輝く瞳を覗き込んだ。
シェンはふっと微笑んだ。
ブロンは、その瞳に彼がシェンであることを理解した。
シェンは、ブロンをその逞しい腕に包みこんだ。
ブロンも安心したように全身をシェンに預けた。
「僕もね、人の姿に身を変えることのできる日が来たんだ。」
シェンが耳元で囁いた。

シェンはブロンの唇にそっと自分の唇をおしあてた。
ブロンは眼を閉じ、夢見るようにその熱くて甘いくちづけを受け止めた。
すこし吐息を漏らしたブロンをふたたび横たえ、その白い素肌の全部にシェンは優しくくちづけ、愛撫した。
ブロンも、その首に腕を回し、自分からシェンの頬にくちづけを与えた。
そして昔のように自分の胸にシェンの頭を抱いて髪を撫でてやった。
シェンはうっとりとブロンの胸にくちづけた。
シェンは宝物のようにブロンに触れた。
その焔で決してブロンを貫こうとしなかった。
激しい衝動を堪えながら、アメジストのうつくしい光の中でブロンを抱いた。
抱かれながら、夢心地で、けれどブロンは何処かで泣いているだろうノワールを脳裏にほんのりと思い浮かべていた。
シェンは、そんなブロンにキーンと胸が貫かれるのをかすかに感じながらも、その痛みをも共に愛撫した。
ふたりはやがて共にお互いを愛撫しながら、ふかく眠りに落ちていった・・・。

永遠につづく・・・

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第7章

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